2023年3月31日

都市農業の多面的機能をフル活用 農のアトリエ「蔵の里」

西東京市富士町にある「農のアトリエ『蔵の里』」(以下、蔵の里)に訪れました。農業体験農園「トミー倶楽部」の前に位置するこの建物。一体どんな場所なのでしょうか。

農のアトリエ「蔵の里」

 

■農のアトリエ「蔵の里」

西東京市にある、農のアトリエ「蔵の里」(以下、蔵の里)は、蔵と三和土のテラスで構成された市民の交流拠点です。「昔の農の風景や農具の展示空間、交流スペース、情報交換、勉強会等の場として活用する」ことをねらいとしています。農家で、農業体験農園「トミー倶楽部」の農園主でもある冨岡誠一さんは、所有していた蔵を活用するために「西東京市都市と農業が共生するまちづくり事業」の支援を受けて、平成25年に整備しました。

蔵の周りの軒を延長して広い三和土の土間が作られています

 

蔵の里は「防災拠点」としても使用できるように整備されており、テラス内には井戸が設置され、災害時には震災用井戸として活用します。停電時も揚水を行えるように発電機も配置されています。AEDなども完備しており、いざというときの市民の拠り所として機能するように、「畑の防災訓練」が行われてきました(コロナ禍以降、開催を中止しています)。災害協力農地への避難体験、防災井戸の揚水体験、AEDの使用方法等講習と初期消火訓練、非常炊き出し体験などが行われ、自衛隊や消防署も協力して行う一大イベントとなっています。

蔵の里では、ふだんから井戸水を使っています

 

■「西東京市の農業《知っとくスクール》」

取材にお邪魔した3月13日(月)には、西東京市立本町小学校3年生の児童を対象に、西東京市内の農業の今と昔について学ぶ「西東京市の農業《知っとくスクール》」が実施されました。この課外授業は平成26年から続いており、近隣小学校の児童たちは年に3回、蔵の里に訪れ、蔵の中や畑で市内の農業について学びます。この日は締めくくりとなる3回目の授業。農機具の昔からの移り変わり、小麦の生産や製粉までの過程について学び、蔵内部に設置された農機具と昔の写真などを見学しました。

授業をする冨岡さん

 

昔の写真に興味深々 何か発見があったようです

 

講師を務めたのは冨岡さん。生産者でありながら、10年近く地域の農業について教えてきた冨岡さんの説明はとてもわかりやすく、児童たちは真剣にメモをとったり、たくさん質問を投げかけたりしていました。また、実物を見たり、触ったりできる体験はとても新鮮で「昔と今で、使用している農機具はどのように違うのか?」という話や、小麦と稲は「芒(ノギ又はノゲ)がまっすぐ立っているものは麦」ということ、蔵の中に展示してある唐箕(トウミ)を実際に動かして「穀物をどのようにして実と殻に分けているのか」などについて解説がありました。

芋を洗うための道具 実物を見ながら昔の人の知恵を教わります

 

真剣にメモをとっています

 

冨岡さん「こっちが小麦だと思う人は手を挙げてください」

 

唐箕から出る風を体感しています

 

■おわりに

都市農業の多面的機能として

  • まちなみにうるおいや個性をもたらす「景観創出」機能
  • 地域にふれあいとコミュニティをうみだす「交流創出」機能
  • 農や食をとおして学びの機会をつくる「食育・教育」機能
  • 新鮮な農産物を食べてまちおこしにもつながる「地産地消」機能
  • まちの環境を整える「環境保全」機能
  • その時、あなたを助ける備えとなる「防災」機能

があると言われています。
蔵の里では、前述した防災訓練や課外授業のほかにも、農業関係者、地域住民、トミー農園の参加者など、様々な人が集う場所として日ごろから利用されています。農作物の生産という役割を超えた、都市農業の多面的機能の発揮と発信に非常に力を入れて実践されている素晴らしい取り組みです。これは西東京市と冨岡さんとの双方の協力があってこそ実現しています。
防災訓練が復活して活気が戻り、きっとさらに進化していく蔵の里を楽しみにしたいと思います。